くも膜下出血とその後遺症
- 2011年11月08日
- 院長コラム
くも膜下出血は脳卒中の一種ですが、一度の発作での死亡率が一番高い為(約30%)予防や治療が大切になります。脳の膜は、内側から軟膜、くも膜、硬膜の3つの膜に被われています。脳の主要な血管(太い血管)は、くも膜と軟膜の間(くも膜下)にある事が実はみそです。動脈瘤は血管の分岐部に出来、破裂するとくも膜の下に拡大しますが、くも膜下には血管の他には髄液があるだけですから、一旦破裂すると水そのものは抵抗が少ない為、脳内出血と違って出血が拡大しやすい事になります。一般的に出血の量は、出血前の血圧の高さに比例すると考えられています。なお、出血が止まる機序は、頭蓋内圧が出血に伴い急激に上昇し、出血する圧と頭蓋内圧の均衡が取れた時点で、出血は止まります。従って、出血前の血圧が高いと出血量は多く、低いと出血量は少ない事になります。この事からも、日頃からの血圧の管理が大切になります。一般的に、患者さんが若いほど、出血量が少ないほど生命や機能の予後は良い様です。
くも膜下出血の手術は、この出血が止まっている間に行います。手術の種類は、コイル法とクリッピング法の2種類があり、動脈瘤の位置や形から判断して、どちらが安全かを術前に確認して手術法が選択されます。もし、この手術が完了する前に再度動脈瘤から出血が起これば、再出血と呼び更に予後が悪くなります。脳神経外科医は大なり小なり、どうか再出血が起こりません様にと祈りながら手術を行っています。
くも膜下出血の後遺症は、色々なレベルの問題があります。最重症の場合は、通常くも膜下出血の量が多く、術前より意識レベルが昏睡状態になり、術後も意識障害が継続します。次に問題となる後遺症としては、術前は意識レベルが悪くなくても、出血の為に術後3週間から4週間の間に脳の血管攣縮(糸の様に細くなる事)が起こり、この為に脳梗塞が続発するものです。この脳血管攣縮は、色々研究がなされていますが、いまだに決定的な改善方法がないのが現実です。血液は本来血管の中にある場合は、酸素やブドウ糖を運搬し良い役目をしますが、いったん血液が血管外へ出て、血管壁にまとわりついて血管壁にしみ込むと、血管を収縮させる(止血の為)働きがあります。これこそが血管攣縮の正体です。従って術後4週間以上経過し何事の無ければ、血管攣縮はないか、あってもごく軽度と考えられます。この血管攣縮も、若い人ほど、出血量が少ないほど起こりにくい様です。もうひとつ、重要な後遺症は水頭症が挙げられます。水頭症は本来髄液が流れているくも膜下腔に血液が流れ込む為、髄液の循環が悪くなり、結果頭蓋内に髄液が貯留して水頭症が起こります。従って、出血量が多いほど水頭症になる確率は高くなります。この水頭症は、髄液を半永久的に腹腔内へ流し込むシャント術でほぼ全例軽快しますのであまり心配は要りません。
最後に、くも膜下出血の予防は脳ドックの健診で破裂する前の動脈瘤を調べる事で可能になります。出血前の動脈瘤の手術は、出血後よりはるかに簡単に手術が出来、しかも後遺症が断然少なくて済みます。どうか日頃から脳ドックを受ける事をお勧めいたします。