授乳中の頭痛薬


先日、授乳中の片頭痛の患者さんがこられました。妊娠前は、片頭痛の特効薬のトリプタン製剤を服用され、片頭痛をコントロールされていました。妊娠中は教科書通り、片頭痛はなかった様です。その後、お子様を出産及び授乳1ヵ月後より、再び片頭痛が再発しました。前回コラムで書きました様に、妊娠中の鎮痛剤の制約はかなり厳しいものがあります。授乳中の鎮痛剤は、妊娠中ほ程きびしいものではない様です。具体的には、授乳中に服用の安全が確認されている薬剤は、国立成育医療研究センターによると、次の9種類の薬です。薬の名前及び商品名を記載します。参考にして下さい。アセトアミノフェン(カロナール)。イブプロフェン(ブルフェン)、インドメタシン(インテバン)、ケトプロフェン(カピステン)、ジクロフェナック(ボルタレン)、ナプロキサン(ナイキサン)、ピロキシカム(パキソ)、フルルピプロフェン(プロペン)、加えて片頭痛の特効薬のエレトリプタン(レルパックス)とスマトリプタン(イミグラン)です。頭痛で繁用されていますロキソニンは含まれてない様です。

頭部外傷と逆行性健忘症


先日、交通事故による頭部外傷の患者さんが来院されました。事故は、バイクの転倒事故で右側頭部のヘルメットにキズがあり、右側頭部を打撲した様なのですが、患者さん御本人は、事故の少し前(数分)から事故の少し後(数十分)までの記憶が全くないとの事でした。この為、事故は自損事故か衝突事故か目撃者もなく、詳細は不明でした。
頭部CTの検査では、幸い記憶の中枢(中心部)の海馬を含めて何も異常はありませんでした。また、患者さんの記憶力も事故後全く正常に戻っていましたが、やはり事故前後の記憶は戻りませんでした。この様に、ある出来事から少し前の記憶がない病態を、時間がさかのぼるという意味で逆行性健忘症と呼ばれています。では、何故この様な病態が存在するのでしょうか? 
その訳は、人間の記憶のメカニズムに原因があります。我々が、見たもの、聞いたもの、食べたものを記憶する場合は、直ぐに海馬に記憶される訳ではありません。その様な情報は、ペーペッツの回路という原始脳の回路を回転してはじめて海馬に記憶されます。従って、海馬へ記憶される為には、数秒から数分間くらい時間がかかる事になります。また、この回路の回転数が多い程(たくさん回転した程)、海馬の奥底にしっかりとした記憶として残ります。例えば、母親の顔、声、俗に言うお袋の味等は、幼い頃から数限りなく回路が回転して海馬へ生涯の記憶として刻み込まれています。                   今回の事故の場合、回路が回転中に頭部外傷を受け、海馬への記憶がとまりました。そして、脳振盪後にしばらく時間が経過して、再び回路が正常回転してはじめて記憶する力が回復した為、今回の様な記憶力障害が起こりました。
以上が逆行性健忘症のメカニズムです。

妊娠と薬について


妊娠中の内服薬については、古くはサリドマイド事件(1950年代後半に発売された妊婦用の睡眠剤)に代表される様に、危険な副作用を引き起こす可能性がある為、全ての内服薬に関して服用せずに出産を迎える方が良いと考えられています。しかし、一部例外として妊娠中に内服薬服用の方が、服用しないより利益が上回る場合に限り服用が許されるようです。
①頭痛薬
妊娠中の頭痛には、妊娠初期の妊娠嘔吐(つわり)に伴う頭痛、片頭痛、筋収縮性頭痛(肩こりから)の3種類が主なものです。片頭痛は妊娠中にホルモンバランスが一定となる為、片頭痛が起こらないかあっても軽度のものになります。つわりの頭痛の対処法は、安静を保ち前額部を冷やして下さい。また筋収縮性頭痛は肩や首のマッサージや運動をして軽快につとめて下さい。上記3週類の頭痛がどうしても我慢できない場合には、内服薬の服用になります。今までの経験や、動物実験から安全性が確立している薬は、アセトアミノフェン(カロナール)になります。しかし、アセトアミノフェンの消炎鎮痛作用は弱いので、効果が充分期待できない場合があります。その場合には、アスピリンの併用が可能です。但し、アスピリンは抗血小板板作用(出血しやすい)がある為、妊娠7ヶ月までの間は服用可能ですが、それを過ぎると禁忌となります。また、その他の多くの消炎鎮痛剤は胎児動脈管の収縮や羊水の減少等の副作用から禁忌となります。
②抗痙攣剤
てんかんの患者さんで、医学的にみて妊娠の許可をされる方は、痙攣発作が過去3~5年間なく、また抗痙攣剤(比較的安全な)を飲むことによるリスクを充分に理解された方となります。つまり、一般的な出産の奇形率の発症は2~3%となり、安全な抗痙攣剤を服用しても奇形率の頻度は2~3倍に上がります。つまり4~9%の奇形率になります。その頻度を充分に理解された方が抗痙攣剤を飲みながらの出産となります。また、多くの抗痙攣剤の中で、妊娠中に禁忌とされているものはミノアレビアチン、原則禁忌がデパケン、セレニカになります。
③風邪薬
漢方薬は大丈夫の様です。また抗生物質はペニシリン系、セファロスポリン系のものは大丈夫です。
④胃腸薬
胃薬は防御因子増強薬(マーズレン、ムコスタ、セルベックス)は問題ありません。H2ブロッカー(ガスター等)やPPI(タケプロン等)は日本では、妊婦に対して安全性が確立されていません。
⑤市販薬
市販の風邪薬や痛み止めは原則問題ありません、最少量をなるべく短期間服用する様にして下さい。またアスピリンの配合剤は避けて下さい。

以上の事に充分注意され、元気のよいかわいい赤ちゃんが出来る事を応援しています。

妊娠と頭痛


 妊娠中の頭痛、悪心、嘔吐の大半は妊娠嘔吐(つわり)です。しかし、その中には、軽視できないものや他の疾患と鑑別が必要な場合がありますので、症状が強い場合には専門医(産婦人科医や脳神経外科医)に相談する必要があります。つわりは全妊婦の50~80%におこり、妊娠5週から16週の、胎児に重要な妊娠初期の器官形成期から母体側に胎盤が完成するまでの間に起こるようです。またつわりは、母体側が胎児を異種蛋白質(自分でない蛋白質)と認識する一種のアレルギー反応と考えられています。このアレルギー反応は、胎盤が完成した後はアレルギー反応が軽減される為つわり症状はなくなってきます。
 また、甲状腺機能亢進症等の基礎疾患を持っている方や多胎妊娠の方、不安感、恐怖感、ストレスを感じやすい妊婦に多く見られる傾向にあります。頭痛と嘔吐の程度が強いものでは、全身状態の悪化につながり妊娠悪阻(おそ)と呼ばれ点滴加療や入院が必要になる場合もあります。
 なお著者も、若い頃につわりの強い患者さんが妊娠している事に気が付かず脳神経外科を受診され、くも膜下出血と考えMRIを施行した経験があります。この様に、つわりの頭痛もくも膜下出血(バットで殴られた様な頭痛)と同等程度の方のおられます。
 治療法は、薬を飲まずに安静加療が基本です。殆どの消炎鎮痛剤は動脈狭窄症や羊水減少などの副作用が出現し禁忌(飲む事が禁止されています)とされています。
 どうしても薬を飲む必要が有る場合には、今までの経験や動物実験から安全性が確立されている薬を飲まれる事をお勧めいたします。次回詳しくお伝えする予定です。


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