慢性硬膜下血腫と漢方薬


慢性硬膜下血腫は、頭部外傷の3週間から3ヵ月後に形成される硬膜と脳(正確には脳の表面のくも膜)の間に形成される血のかたまりです。血腫は、通常固まってなく液状になっており、昔から頭蓋骨に約1cmの孔を開ける手術(穿頭術)で症状が改善する脳神経外科では一番予後(生命及び機能)の良い疾患です。
慢性硬膜下血腫に成りやすい因子としては、、脳と骨との隙間が大きい事(脳萎縮)、男性、長い飲酒歴、抗血小板剤やワーファリンの服用があげられます。血腫の形成には、頭部外傷直後に少量の血が硬膜下腔に漏れ出て(この段階ではCTやMRIは正常)、血腫の膜が形成され浸透圧の差から膜の中で血腫が増大する為と考えられています。
以前は、血腫の推定血腫量が50ccを超えると手術適応があると考えられていました。なお、手術をすれば予後の良い慢性硬膜下血腫でも、血腫を放置すると血腫量が徐々に増大し、最終的には患者さんが昏睡状態から死にいたる疾患です。
最近慢性硬膜下血腫の治療で話題となっているものとして、漢方薬があげられます。17番の五苓散は利水作用があり、異常になっている浸透圧の調整をし血腫を縮小させる漢方薬です。また114番の柴苓湯は、利水作用に加えて副腎皮質ステロイドの様な抗炎症作用も備え、血腫の増大抑制に有効とされています。
古くて、新しい薬である漢方薬に期待が集まっています。

授乳中の頭痛薬


先日、授乳中の片頭痛の患者さんがこられました。妊娠前は、片頭痛の特効薬のトリプタン製剤を服用され、片頭痛をコントロールされていました。妊娠中は教科書通り、片頭痛はなかった様です。その後、お子様を出産及び授乳1ヵ月後より、再び片頭痛が再発しました。前回コラムで書きました様に、妊娠中の鎮痛剤の制約はかなり厳しいものがあります。授乳中の鎮痛剤は、妊娠中ほ程きびしいものではない様です。具体的には、授乳中に服用の安全が確認されている薬剤は、国立成育医療研究センターによると、次の9種類の薬です。薬の名前及び商品名を記載します。参考にして下さい。アセトアミノフェン(カロナール)。イブプロフェン(ブルフェン)、インドメタシン(インテバン)、ケトプロフェン(カピステン)、ジクロフェナック(ボルタレン)、ナプロキサン(ナイキサン)、ピロキシカム(パキソ)、フルルピプロフェン(プロペン)、加えて片頭痛の特効薬のエレトリプタン(レルパックス)とスマトリプタン(イミグラン)です。頭痛で繁用されていますロキソニンは含まれてない様です。

頭部外傷と逆行性健忘症


先日、交通事故による頭部外傷の患者さんが来院されました。事故は、バイクの転倒事故で右側頭部のヘルメットにキズがあり、右側頭部を打撲した様なのですが、患者さん御本人は、事故の少し前(数分)から事故の少し後(数十分)までの記憶が全くないとの事でした。この為、事故は自損事故か衝突事故か目撃者もなく、詳細は不明でした。
頭部CTの検査では、幸い記憶の中枢(中心部)の海馬を含めて何も異常はありませんでした。また、患者さんの記憶力も事故後全く正常に戻っていましたが、やはり事故前後の記憶は戻りませんでした。この様に、ある出来事から少し前の記憶がない病態を、時間がさかのぼるという意味で逆行性健忘症と呼ばれています。では、何故この様な病態が存在するのでしょうか? 
その訳は、人間の記憶のメカニズムに原因があります。我々が、見たもの、聞いたもの、食べたものを記憶する場合は、直ぐに海馬に記憶される訳ではありません。その様な情報は、ペーペッツの回路という原始脳の回路を回転してはじめて海馬に記憶されます。従って、海馬へ記憶される為には、数秒から数分間くらい時間がかかる事になります。また、この回路の回転数が多い程(たくさん回転した程)、海馬の奥底にしっかりとした記憶として残ります。例えば、母親の顔、声、俗に言うお袋の味等は、幼い頃から数限りなく回路が回転して海馬へ生涯の記憶として刻み込まれています。                   今回の事故の場合、回路が回転中に頭部外傷を受け、海馬への記憶がとまりました。そして、脳振盪後にしばらく時間が経過して、再び回路が正常回転してはじめて記憶する力が回復した為、今回の様な記憶力障害が起こりました。
以上が逆行性健忘症のメカニズムです。

妊娠と薬について


妊娠中の内服薬については、古くはサリドマイド事件(1950年代後半に発売された妊婦用の睡眠剤)に代表される様に、危険な副作用を引き起こす可能性がある為、全ての内服薬に関して服用せずに出産を迎える方が良いと考えられています。しかし、一部例外として妊娠中に内服薬服用の方が、服用しないより利益が上回る場合に限り服用が許されるようです。
①頭痛薬
妊娠中の頭痛には、妊娠初期の妊娠嘔吐(つわり)に伴う頭痛、片頭痛、筋収縮性頭痛(肩こりから)の3種類が主なものです。片頭痛は妊娠中にホルモンバランスが一定となる為、片頭痛が起こらないかあっても軽度のものになります。つわりの頭痛の対処法は、安静を保ち前額部を冷やして下さい。また筋収縮性頭痛は肩や首のマッサージや運動をして軽快につとめて下さい。上記3週類の頭痛がどうしても我慢できない場合には、内服薬の服用になります。今までの経験や、動物実験から安全性が確立している薬は、アセトアミノフェン(カロナール)になります。しかし、アセトアミノフェンの消炎鎮痛作用は弱いので、効果が充分期待できない場合があります。その場合には、アスピリンの併用が可能です。但し、アスピリンは抗血小板板作用(出血しやすい)がある為、妊娠7ヶ月までの間は服用可能ですが、それを過ぎると禁忌となります。また、その他の多くの消炎鎮痛剤は胎児動脈管の収縮や羊水の減少等の副作用から禁忌となります。
②抗痙攣剤
てんかんの患者さんで、医学的にみて妊娠の許可をされる方は、痙攣発作が過去3~5年間なく、また抗痙攣剤(比較的安全な)を飲むことによるリスクを充分に理解された方となります。つまり、一般的な出産の奇形率の発症は2~3%となり、安全な抗痙攣剤を服用しても奇形率の頻度は2~3倍に上がります。つまり4~9%の奇形率になります。その頻度を充分に理解された方が抗痙攣剤を飲みながらの出産となります。また、多くの抗痙攣剤の中で、妊娠中に禁忌とされているものはミノアレビアチン、原則禁忌がデパケン、セレニカになります。
③風邪薬
漢方薬は大丈夫の様です。また抗生物質はペニシリン系、セファロスポリン系のものは大丈夫です。
④胃腸薬
胃薬は防御因子増強薬(マーズレン、ムコスタ、セルベックス)は問題ありません。H2ブロッカー(ガスター等)やPPI(タケプロン等)は日本では、妊婦に対して安全性が確立されていません。
⑤市販薬
市販の風邪薬や痛み止めは原則問題ありません、最少量をなるべく短期間服用する様にして下さい。またアスピリンの配合剤は避けて下さい。

以上の事に充分注意され、元気のよいかわいい赤ちゃんが出来る事を応援しています。


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