先日、頭部外傷後6年経過した患者さんが意識消失発作の精密検査の目的で来院されました。患者さんは、70歳代の男性で、6年前の交通事故で約2ヵ月間の意識障害があったようです。当院の頭部MRIでは異常はありませんでしたが、外傷以前にてんかんの治療歴はなく、脳波で光刺激の後に、てんかんに特有の棘波(きょくは)=てんかん波を認めた為、外傷性てんかんと診断しました。
外傷が原因のけいれん発作は、受傷直後~24時間までの直後けいれん、受傷1週間から1ヶ月の早期けいれん、受傷1ヶ月以上経過した後に起こる晩期けいれんに分類されます。受傷直後のものは、脳の細胞レベルの電解質の異常や、酸欠状態等の全身障害により起こり、早期に改善し、てんかんへの移行は少ないようです。一方、晩期けいれんは外傷性てんかんに移行する可能性が高いようです。
外傷性てんかんに移行しやすい要因としては、開放性脳挫傷、髄膜炎、今回の患者さんの様に重症頭部外傷(遷延性記憶障害)、早期けいれんがあります。
てんかんの形は全般性発作が多く、部分てんかんは少ないようです。治療は一般的なてんかんに準じて行います。
※けいれんとは、全身あるいは一部分がけいれんする病態で通常脳波やMRIで異常がないもの。
※てんかんとは脳波で異常を認め、けいれん発作を認めるもの。
脳卒中は、冬に出血ー脳内出血、くも膜下出血が、夏には血管のつまりー脳梗塞、脳塞栓が多い傾向です。従って特に冬には血圧を、夏には脱水症には注意をしましょう。
慢性硬膜下血腫は、頭部外傷の3週間から3ヵ月後に形成される硬膜と脳(正確には脳の表面のくも膜)の間に形成される血のかたまりです。血腫は、通常固まってなく液状になっており、昔から頭蓋骨に約1cmの孔を開ける手術(穿頭術)で症状が改善する脳神経外科では一番予後(生命及び機能)の良い疾患です。
慢性硬膜下血腫に成りやすい因子としては、、脳と骨との隙間が大きい事(脳萎縮)、男性、長い飲酒歴、抗血小板剤やワーファリンの服用があげられます。血腫の形成には、頭部外傷直後に少量の血が硬膜下腔に漏れ出て(この段階ではCTやMRIは正常)、血腫の膜が形成され浸透圧の差から膜の中で血腫が増大する為と考えられています。
以前は、血腫の推定血腫量が50ccを超えると手術適応があると考えられていました。なお、手術をすれば予後の良い慢性硬膜下血腫でも、血腫を放置すると血腫量が徐々に増大し、最終的には患者さんが昏睡状態から死にいたる疾患です。
最近慢性硬膜下血腫の治療で話題となっているものとして、漢方薬があげられます。17番の五苓散は利水作用があり、異常になっている浸透圧の調整をし血腫を縮小させる漢方薬です。また114番の柴苓湯は、利水作用に加えて副腎皮質ステロイドの様な抗炎症作用も備え、血腫の増大抑制に有効とされています。
古くて、新しい薬である漢方薬に期待が集まっています。
先日、授乳中の片頭痛の患者さんがこられました。妊娠前は、片頭痛の特効薬のトリプタン製剤を服用され、片頭痛をコントロールされていました。妊娠中は教科書通り、片頭痛はなかった様です。その後、お子様を出産及び授乳1ヵ月後より、再び片頭痛が再発しました。前回コラムで書きました様に、妊娠中の鎮痛剤の制約はかなり厳しいものがあります。授乳中の鎮痛剤は、妊娠中ほ程きびしいものではない様です。具体的には、授乳中に服用の安全が確認されている薬剤は、国立成育医療研究センターによると、次の9種類の薬です。薬の名前及び商品名を記載します。参考にして下さい。アセトアミノフェン(カロナール)。イブプロフェン(ブルフェン)、インドメタシン(インテバン)、ケトプロフェン(カピステン)、ジクロフェナック(ボルタレン)、ナプロキサン(ナイキサン)、ピロキシカム(パキソ)、フルルピプロフェン(プロペン)、加えて片頭痛の特効薬のエレトリプタン(レルパックス)とスマトリプタン(イミグラン)です。頭痛で繁用されていますロキソニンは含まれてない様です。