視床痛


脳卒中発症の患者さんの中の約8%に、数日から数ヵ月経過した後、脳卒中の対側に耐え難い痛みが出現する事が知られています。この痛みを発生させる部位は視床が最も多い事から、視床痛と呼ばれています。その他の中枢神経の部位としては、大脳皮質、皮質下、脳幹部や脊髄を侵されても同様の痛みが起こる様です。痛みの性質は、一般的には耐え難い痛みで、灼熱感の様な痛みと表現されます。この痛みの出現は、触覚、温度覚や精神的な情動でも簡単に引き起こされる性質があり、しばしば理学療法(リハビリテーション)の妨げになります。
痛みのタイプは、触圧覚や深部知覚の域値の上昇、不快な痛みを伴った疼痛、不快な異常感覚を伴った疼痛、強刺激によって引き起こされる疼痛などに分けられます。

この視床痛出現の原因は、知覚求心路(足から頭に向かう神経)の切断後に、切断の頭側の神経細胞の過剰放電が関係していて、この放電は中枢神経の多くの場所で記録されています。また、この過剰放電には興奮性アミノ酸の関与が知られてます。

治療法は内科的治療法として、トリプタノールとラミクタールが有効で、テグレトールは無効と報告されています。また最近ではリリカの有効性も注目されています。外科的治療法の主なものは、大脳皮質運動野刺激術や脳深部電気刺激術や脊髄電気刺激療法が知られています。

くも膜下出血とその後遺症


くも膜下出血は脳卒中の一種ですが、一度の発作での死亡率が一番高い為(約30%)予防や治療が大切になります。脳の膜は、内側から軟膜、くも膜、硬膜の3つの膜に被われています。脳の主要な血管(太い血管)は、くも膜と軟膜の間(くも膜下)にある事が実はみそです。動脈瘤は血管の分岐部に出来、破裂するとくも膜の下に拡大しますが、くも膜下には血管の他には髄液があるだけですから、一旦破裂すると水そのものは抵抗が少ない為、脳内出血と違って出血が拡大しやすい事になります。一般的に出血の量は、出血前の血圧の高さに比例すると考えられています。なお、出血が止まる機序は、頭蓋内圧が出血に伴い急激に上昇し、出血する圧と頭蓋内圧の均衡が取れた時点で、出血は止まります。従って、出血前の血圧が高いと出血量は多く、低いと出血量は少ない事になります。この事からも、日頃からの血圧の管理が大切になります。一般的に、患者さんが若いほど、出血量が少ないほど生命や機能の予後は良い様です。
くも膜下出血の手術は、この出血が止まっている間に行います。手術の種類は、コイル法とクリッピング法の2種類があり、動脈瘤の位置や形から判断して、どちらが安全かを術前に確認して手術法が選択されます。もし、この手術が完了する前に再度動脈瘤から出血が起これば、再出血と呼び更に予後が悪くなります。脳神経外科医は大なり小なり、どうか再出血が起こりません様にと祈りながら手術を行っています。
くも膜下出血の後遺症は、色々なレベルの問題があります。最重症の場合は、通常くも膜下出血の量が多く、術前より意識レベルが昏睡状態になり、術後も意識障害が継続します。次に問題となる後遺症としては、術前は意識レベルが悪くなくても、出血の為に術後3週間から4週間の間に脳の血管攣縮(糸の様に細くなる事)が起こり、この為に脳梗塞が続発するものです。この脳血管攣縮は、色々研究がなされていますが、いまだに決定的な改善方法がないのが現実です。血液は本来血管の中にある場合は、酸素やブドウ糖を運搬し良い役目をしますが、いったん血液が血管外へ出て、血管壁にまとわりついて血管壁にしみ込むと、血管を収縮させる(止血の為)働きがあります。これこそが血管攣縮の正体です。従って術後4週間以上経過し何事の無ければ、血管攣縮はないか、あってもごく軽度と考えられます。この血管攣縮も、若い人ほど、出血量が少ないほど起こりにくい様です。もうひとつ、重要な後遺症は水頭症が挙げられます。水頭症は本来髄液が流れているくも膜下腔に血液が流れ込む為、髄液の循環が悪くなり、結果頭蓋内に髄液が貯留して水頭症が起こります。従って、出血量が多いほど水頭症になる確率は高くなります。この水頭症は、髄液を半永久的に腹腔内へ流し込むシャント術でほぼ全例軽快しますのであまり心配は要りません。
最後に、くも膜下出血の予防は脳ドックの健診で破裂する前の動脈瘤を調べる事で可能になります。出血前の動脈瘤の手術は、出血後よりはるかに簡単に手術が出来、しかも後遺症が断然少なくて済みます。どうか日頃から脳ドックを受ける事をお勧めいたします。

高齢者と脱水症ー水分補給法について


日本の気候風土が、温帯性から亜熱帯へ変わりつつあります。特に、近年は最高気温が35~37℃以上の日が年に数日あることが当たり前になっています。脳外科学会でも、随分以前から冬の脳内出血と夏の脳梗塞に注意を喚起してきましたが、亜熱帯化の影響で、益々脳梗塞や脱水症に注意が必要です。
一般的に人間は、男性で全体重の60%、女性で55%の水分を体内ー特に筋肉で蓄えています。そして、脱水等の水分量の減少を視床下部からの命令でのどの渇きとして感じ、水を飲む事で水分の補給をしています。したがって、水分補給量はのどの渇きに応じて接取すれば問題ない事になります。
しかし、ここで注意する事が2点あります。まず第1に、加齢と供に全身の筋肉量が減少します。この為、若い頃に比べて体全体の水分貯蓄量が減少しています。従って、若い頃には耐える事が出来たのどの渇きも即、脱水症から熱中症へ進展する危険性が増える事になります。特に、就寝前の様にある程度長時間水分の補給が無意識に困難な状態の場合には、周囲の温度や湿度に配慮して、ある程度少しののどの渇きでも水分の摂取が必要です。
第2点として、接取する水分の成分の問題があります。最近、テレビのCMでも指摘がある様に、体内の水分は水と電解質(塩分)で構成されています。この水分摂取を水のみで行うと、体内の電解質が減少し浸透圧が下がり、体のむくみや筋肉の痙攣を起こります。補給する水分が少量の場合は真水で問題はありませんが、たくさん汗をかき、一度に多量の水分を補給する場合は電解質入りの水を補給する必要があります。人間の体内の水分は、1リッターの水に対して塩分3g(小さじ1/2)を摂取する事で補う事ができます。多量に水分を補給する場合は、塩分入りの水の摂取が大切です。以上水分補給の注意点をお伝え致します。

放射線の影響VS生活習慣-計画的避難区域の放射線量とは


原発事故後の放射能について、連日マスコミ報道がなされ世間の注目を集めています。しかし、実際は専門用語が多く本当に心配な事か、ただ話題提供の為の報道なのかよく分からないのが現状です。そこで、7月18日付の西日本新聞に分かりやすい記事がありましたので御紹介致します。
東大病院放射線科中川恵一准教授によると、上図の様に、年間の被曝線量が250ミリシーベルト以上になると、細胞死による確定的影響がはじまり、脱毛や白血球減少や生殖機能の喪失が起こります。年間被曝線量が100ミリシーベルトを超えると癌による死亡率がおよそ0.5%高まる様です。参考までに、計画的避難区域は20ミリシーベルトで、明確に癌発生率上昇程の影響はない様です。また、人体は年間2.4ミリシーベルト(世界平均)の自然放射線にさらされていると言われています。
一方で、生活習慣を不摂生にすると、多量の放射線に被爆した事と同じ様に、体に悪影響を及ぼします。例えば、野菜不足は年間被曝線量が100ミリシーベルトに相当し、癌の死亡率を0.5%高めます。更に、塩分の過剰摂取(7.5g/日以上)では被曝線量が200ミリシーベルトに相当します。運動不足や肥満は400ミリシーベルトに、喫煙や毎日3合以上の飲酒は2000ミリシーベルトに相当し癌で死亡するリスクは2倍になる様です。
従って生活習慣をおろそかにするという事は、原発事故後の発電所の極近くに生活している様な状態で、改善しないといけません。この為には、禁煙し適切な飲酒(1合/日)と野菜を中心とした減塩食を食べ、適度に運動(6000歩/日以上)をする事が大切です。


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