ジャイアンツの木村拓也コーチ(37)がくも膜下出血により急逝されました。脳神経外科の立場から申しますと、一度脳ドックの検査をしていればと思い大変残念でなりません。改めてお悔み申し上げます。
くも膜下出血の原因は、90%以上が脳動脈瘤の破裂によります。破裂していない脳動脈瘤は、頭蓋内に存在していても全く無症状ですので、破裂してくも膜下出血になって初めてその存在や、病気の重大さに気付きます。また、一旦くも膜下出血が起こってからは、例え手術が成功しても社会復帰できる確率は1/3程度で、大変恐ろしい疾患です。まさに史上最強の疾患と言っても言い過ぎではありません。
このくも膜下出血を防ぐ唯一の方法は、脳ドック(MRI)で破裂する前の脳動脈瘤を見つける事です。くも膜下出血の好発年齢は、50~60歳と言われていますが、木村コーチの様に30歳代でも起こりえる疾患です。事実、私が経験した一番若い患者さんは18歳の学生さんでした。
日頃から血圧が高い方、煙草の本数の多い方(動脈瘤の危険因子です)、身内の方に脳卒中のある方、頭痛をお持ちの方は、ぜひ脳ドックを受けられる事をおすすめ致します。
必須脂肪酸とは、体内で作ることのできず食事で摂取し、生きていく上で必要不可欠なものです。この必須脂肪酸の中で、最近話題のものとして、主に魚の油から抽出される不飽和脂肪酸と、植物の油から抽出される不飽和脂肪酸があります。青魚に含まれているEPA(イコサペント酸)は、不飽和脂肪酸の一つで、体内の炎症や動脈硬化を抑制する働きがある事が知られています。EPAの働きについては、エスキモーとデンマーク人は、どちらも高脂肪食を好む人種ですが、青魚を多く摂取するエスキモーの心筋梗塞の発症率が圧倒的に少ない事から、EPAが動脈硬化抑制に作用している事が証明されています。
また、植物性脂肪に含まれている不飽和脂肪酸の、AA(アラキドン酸)は逆に炎症や動脈硬化を促進させる働きがあります。1960年代以降、日本人における脳梗塞や心筋梗塞の死亡率が急激に上昇した原因は、動物性脂肪(飽和脂肪酸)の過剰な摂取とともに、植物性脂肪(不飽和脂肪酸)の摂取量の増加が原因と考えられています。更に、この中でも善玉のコレステロール(HDL)が低い人は、脳梗塞の発症率が著しく高い事が知られています。HDLは治療により改善しにくいのですが、このHDLが低い方の脳梗塞の発症を抑える事に、EPA摂取が有効であったとする報告が最近発表されました。また、青魚のEPAの含有率は、多い順から鯖、マグロ、鰯、はまち、ぶり、さんまの順ですが、実際の問題として、これらの魚をほぼ毎日摂取する事は困難です。
この為、EPAを薬として摂取する事でこの問題は解決します。EPA摂取で、脳梗塞の発症を押さえることができますが、最近はこのEPAの値を直接測定する事で、EPAの摂取量が適切かどうかを判断できるようになりました。
認知症とは知的レベルが正常に発達した後に、慢性に知的機能低下症を起こす病態です。認知症の症状を示す疾患は多数ありますが、代表的なものとしてアルツハイマー病、水頭症、慢性硬膜下血腫等があります。中でもアルツハイマー病は、治療が困難で予後も不良の疾患です。この為、痴呆症状を早期に発見する事が重要ですが、それ以上に日頃からアルツハイマー病にならない様に予防する事が重要です。今回、アルツハイマー病を予防する為には、日頃からどの様な生活を送る事が大切か述べたい思います。
アルツハイマー病は1901年ミユヘンの精神科医のアルツハイマー氏が最初に報告した初老期の進行性痴呆症です。現在痴呆症状の原因の第1位と推定されています。ちなみにその総数は65歳以上の方の20~30人に1人と考えられています。アルツハイマー病の危険因子として、加齢、頭部打撲症、知的活動の低下や運動不足等があります。また、最近アルツハイマー病の危険因子として、高血圧症、糖尿病、高脂血症等の脳卒中と類似の危険因子が注目されています。
このアルツハイマー病を予防する為様々な研究が行われていますが、その中で食生活との関係を記述した研究結果では、ビタミンB、C、E群が予防効果ある事が判明しています。この為、これらのビタミン類を緑色野菜で摂取する事が重要と考えられています。また魚の油は認知症を予防する事が知られており、毎日1回魚を食べる場合と比較して、週に1度の群は1.6倍、2週に1度の群は2倍、全く食べない群は5倍の割合で認知症になるという報告があり、積極的に魚を食べる事が認知症の予防になります。その他高血圧症や、糖尿病や、高脂血症が認知症の危険因子の為、積極的な食事療法が重要です。
最後に理想的な食事内容は、魚を1日1度、緑黄色野菜を1日2度、果物を1日1度摂取する事をお勧め致します(太田2005)。
高尿酸血症とは、血液中の尿酸が多くなった状態を言い、その原因には尿酸の過剰な産生や摂取、尿酸の排出障害等があります。この尿酸の値が高くなると、尿酸塩が析出し産生され、関節に炎症が起こり、急性関節炎すなわち痛風を起こします。また、高尿酸血症を放置すると痛風以外にも、尿路結石、腎機能障害、心疾患や脳血管障害を起こす原因となりますので、放置しないで早めに治療する事が大切です。高尿酸血症のなかで、痛風発作を引き起こす症例群の大規模な疫学調査の結果、その原因には食事の過剰な摂取による肥満、食事内容、アルコール過剰摂取、運動不足等が要因としてあげられています。
食事療法は、プリン体を多く含んでいる食物を過剰に摂取する事を避ける様にしましょう。具体的には、海老などの甲殻類、レバー等の内臓、カツオやサンマ等を多量に摂取する事を控ましょう。しかし、最近の研究によると、高尿酸血症を予防するためには、プリン体の多いものを控える事よりも、肥満を改善する事が重要である事がわかってきました。何故なら、肥満になると、高インスリン血症の状態になり、その事で尿酸の産生を増加させ、またその排泄を遅らせる事となります。このため、高尿酸血症の治療の第一目標は肥満を解消する事になります。具体的にはアルコールの飲みすぎを控え、外食や油物も控え、早食いや食事時間の不規則を改善し、肥満を解消し予防しましょう。また、激しい運動は無酸素運動となり、かえって尿酸の産生を増加させる為、早足で歩く等の有酸素運動が有効です。
★プリン体ー分解された最終産物が尿酸になります。