急性特発性硬膜下血腫


急性硬膜下血腫は、一般的には頭部外傷直後から数時間以内に発症します。しかし外傷がなく、原因が不明のいわゆる急性特発性硬膜下血腫の病態がある事も知られています。例えばMizushima(Neurol Med Chir, 99)らは外傷、脳の表面の皮質動静脈奇形、血管腫、動脈瘤、また患者さんの出血傾向と関係ない急性特発性硬膜下血腫の症例が54例あったと報告しています。石井(脳神経外科,04)らはこの病態の症例報告の結語として脳梗塞、心筋梗塞等の動脈硬化性病変が基礎疾患にあり、それに加えて易出血性を助長する薬剤が投与されていた事が血腫発生に影響を与えるとしています。また、他の報告では出血性素因の一つとして血友病の患者さんにおける急性硬膜下血腫の症例でBalak(Surgical Neurology, 97)らは、成人発症の急性硬膜下血腫の半数例が外傷との因果関係はなかったと報告しています。

以上稀な病態ですが、御紹介します。

 

頭部外傷による高次機能障害


頭部外傷による高次機能障害(認知症)

頭部外傷が原因で高次機能障害を引き起こす為には次の3要素が一般的には必要です。
(ア)頭部外傷によって、脳に対する強い外力が加わり、その結果、画像で脳の萎縮や脳室の拡大が認められること。
(イ)意識障害が一定期間持続すること。
(ウ)外傷後の人格の変化、知能低下が顕著なこと。
仮に、上記(ア)を欠いている様な受傷直後の頭部CTやMRIが異常なく、後に高次機能障害を引き起こす様な状態とは、やや特殊な例として画像所見では一見正常と思われるび漫性軸索損傷の状態があります。このび漫性軸索損傷とは、直接に外力が頭部に加わる脳挫傷と違い、間接的な外力が特に回転加速度的に加わる事で、脳全体特に脳深部の神経組織(軸索や血管)にいわゆる歪みが生じる事が外傷機転と考えられています。このため、例え画像所見で異常がない状態【軸索(脳神経細胞同士の連絡網)の異常は画像所見では描出が不可能の為】でも、頭蓋内は深部を中心としてダメージが強く、このため意識障害等の脳全般の臨床症状が起こります。

このびまん性軸索損傷で、臨床例をあげるなら、最軽症型が脳振盪であり、最重症型が外傷後植物状態です。また、日常診療で見かける脳振盪(一般的には数秒から数分の意識障害)の症例が後に高次機能障害を引き起こした症例の経験は私にはありません。

従って高次機能障害を引き起こす程の頭部外傷の場合は、受傷時には脳振盪よりもより重症な意識障害が不可欠と考えます。

 

慢性頭痛


  1. 慢性頭痛にタイプがあるのか?
    慢性頭痛の方は日本で3000万人、そのうちの22%は緊張型頭痛で、8%片頭痛です。
  2. 片頭痛の症状と原因は?
    症状:激しい頭痛と時には嘔吐が加わります。頭痛は、日常生活に支障をきたす程で持続時間は数時間から3日間も継続するタイプもあります。頭痛の発作中は光刺激、音刺激、臭い刺激で痛みが増強します。また、前兆を伴うタイプでは頭痛の20から30分程度前に視野の一部分にキラキラする稲光が出現する閃輝性暗点が出現したり、頭痛発作が起こりそうな漠然とした予兆を訴えるタイプもあります。一般的に、頭痛の際に首を振る事が痛みの為に困難な場合には片頭痛と考えて良いと思います。また片頭痛は後で述べますが、ホルモンのバランスとも関係があります。患者さんの男女比は1:3です。好発年齢は10歳代から60歳代までの病気と考えられていますが、平均寿命の延長でその好発年齢も高齢化している様です。
    原因:なんらかのきっかけで、例えばストレスからの開放(試験の後等)、飲酒、旅行、女性の場合では生理前後のエストロゲンの減少といったホルモンの変化があり、三叉神経から痛みの物質である神経ペプチドが、硬膜の血管に放出されて硬膜の血管に拡張と炎症が起こり、痛覚刺激が脳に伝わり片頭痛となります。頭痛が強い場合は延髄の嘔吐中枢を刺激して嘔吐が起こります。
  3. MRI検査で片頭痛の兆候等はわかるのでしょうか?
    片頭痛はMRIで異常なく、緊張型頭痛と共に機能性頭痛と呼ばれるものです。その他の頭痛、例えばクモ膜下出血や脳腫瘍、脳膿瘍等の感染症等の器質性頭痛との鑑別診断として有効です。
  4. 緊張型頭痛の症状と原因は?
    症状:頭痛は後頭部やコメカミ痛が多く、キリキリする痛み、頭重感、締めつけらえると表現されます。痛みはひどい場合には吐き気をきたすこともありますが、嘔吐はなく一般的に日常生活に支障を来たす程ではありません。
    原因:肩こりや首凝りからの神経痛です。
  5. 片頭痛の対処法は?(患部を冷やす)
    治療はまず、内服薬で頭痛を和らげることから始めます。痛み止めは、副作用の少ない市販薬から開始して、効果が有れば継続して下さい。効果がない場合は、医師処方の消炎鎮痛剤を試して頂きます。更に片頭痛の特効薬のトリプタン製剤へと症状と患者さんの年齢に応じて使い分けます。効果が強い薬は、副作用も注意が必要な為、医師の指示で服用をお願いします。いずれの場合でも痛み止めの服用は飲むタイミングが大切で前兆の時に飲むことが重要です。一般的に、片頭痛は最大限一ヶ月間に8回程度までのため薬を飲みすぎで起こる薬剤乱用性頭痛(月に10日間以上服用の場合起こる)にはなりません。また、随伴する悪心や嘔吐も制吐剤で対処します。
    なお、片頭痛の頻度を減少させる予防薬を服用する事で頻度を減少される事も可能です。
    また、片頭痛は血管の拡張が原因ですので頭部を冷水で冷やすと気分が良いといわれる患者さんもおられます。
  6. 緊張型頭痛の対処法は?(首周りを温める)
    頭は成人で約4kgあり、これは一升瓶2本に相当する重さです。これだけ重いものを支えている為、頭痛の患者さんは、首の細長い女性が多い様です。まず、姿勢を正すことから始めます。また早朝に痛い場合は枕が高すぎるか、硬すぎる事も考えれます。補助的に筋弛緩薬を短期間使用するのも良いでしょう。また、歩行中の姿勢を正す様に、本を上に載せて歩く等の練習も役に立ちます。低血圧症、貧血症も頭痛を起こりやすくするので、無理なダイエットはしない様にしましょう。ストレスとの因果関係があると言われておりストレスをかけない事も重要です。

 

抗痙攣剤と妊娠


妊娠中の抗痙攣剤の服用はこれらの薬の催奇形性から十分に事前の検討が必要です。一般的に全身痙攣等の発作の為に妊娠中や出産中に、胎児や母体に危険を引きこす可能性が抗痙攣剤の催奇形性を上まれば服用が許される事になります。具体的に考えれば正常な出産に際しての奇形の頻度は2~3%と考えられ、抗痙攣剤の種類によって異なりますが、最も安全とされる抗痙攣剤を服用してもこの頻度は2倍から3倍に増加するようです。従って妊娠中に抗痙攣剤を服用する事での奇形の頻度は4%~9%となります。つまり約1/11~1/25の出産で問題となる事になります。

一方、抗痙攣剤服用中でも痙攣発作(発作の重症度に関係なく)が1回以上/年起こる可能性のある症例では、薬を服用する事プラス発作の危険性の2重の問題から医師による妊娠許可の可能性は難しい事になります。

従ってより厳しく基準で症例を限定すると、癲癇の患者さんで痙攣発作のコントロールが3~5年間以上出来ており、なおかつ脳波が正常な症例で上記の内容を十分に理解された御夫婦に限り妊娠が許されると考えます。

 


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