日本の気候風土は、地球温暖化によって温帯性気候から亜熱帯性の気候へ変わってきているようです。特に夏は高温多湿が顕著となり、街中ではアスファルトやコンリートがある他、緑の不足から人間の体温以上に気温が上昇する日も、年に数日数える事が多くなっています。また、冬は暖冬であっても広島市の年最低気温は、雪の降る日には0℃近くに低下する事もあり、真夏と真冬の温度差は35~37度程度ある事になります。
この様な環境の中で一年中同じ降圧剤で経過をみる事は、軽症の高血圧症の方は勿論、重症の高血症の方でも困難となっています。当院での一例をあげますと、65歳の脳梗塞後遺症の患者さんで、冬の間は降圧剤を3種類服用されていますが、春から夏にかけて徐々に収縮期血圧が100近くまで下降する為3剤を2剤や場合によっては1剤に減量する事を経験します。
最近は家庭血圧測定の重要性を叫ばれ、ほぼ患者さんに浸透しつつありますが、今後季節によって薬を増量や減量する事が一般化すると、益々家庭血圧の重要性が増すものと考えます。
急性硬膜下血腫は、一般的には頭部外傷直後から数時間以内に発症します。しかし外傷がなく、原因が不明のいわゆる急性特発性硬膜下血腫の病態がある事も知られています。例えばMizushima(Neurol Med Chir, 99)らは外傷、脳の表面の皮質動静脈奇形、血管腫、動脈瘤、また患者さんの出血傾向と関係ない急性特発性硬膜下血腫の症例が54例あったと報告しています。石井(脳神経外科,04)らはこの病態の症例報告の結語として脳梗塞、心筋梗塞等の動脈硬化性病変が基礎疾患にあり、それに加えて易出血性を助長する薬剤が投与されていた事が血腫発生に影響を与えるとしています。また、他の報告では出血性素因の一つとして血友病の患者さんにおける急性硬膜下血腫の症例でBalak(Surgical Neurology, 97)らは、成人発症の急性硬膜下血腫の半数例が外傷との因果関係はなかったと報告しています。
以上稀な病態ですが、御紹介します。
頭部外傷による高次機能障害(認知症)
頭部外傷が原因で高次機能障害を引き起こす為には次の3要素が一般的には必要です。
(ア)頭部外傷によって、脳に対する強い外力が加わり、その結果、画像で脳の萎縮や脳室の拡大が認められること。
(イ)意識障害が一定期間持続すること。
(ウ)外傷後の人格の変化、知能低下が顕著なこと。
仮に、上記(ア)を欠いている様な受傷直後の頭部CTやMRIが異常なく、後に高次機能障害を引き起こす様な状態とは、やや特殊な例として画像所見では一見正常と思われるび漫性軸索損傷の状態があります。このび漫性軸索損傷とは、直接に外力が頭部に加わる脳挫傷と違い、間接的な外力が特に回転加速度的に加わる事で、脳全体特に脳深部の神経組織(軸索や血管)にいわゆる歪みが生じる事が外傷機転と考えられています。このため、例え画像所見で異常がない状態【軸索(脳神経細胞同士の連絡網)の異常は画像所見では描出が不可能の為】でも、頭蓋内は深部を中心としてダメージが強く、このため意識障害等の脳全般の臨床症状が起こります。
このびまん性軸索損傷で、臨床例をあげるなら、最軽症型が脳振盪であり、最重症型が外傷後植物状態です。また、日常診療で見かける脳振盪(一般的には数秒から数分の意識障害)の症例が後に高次機能障害を引き起こした症例の経験は私にはありません。
従って高次機能障害を引き起こす程の頭部外傷の場合は、受傷時には脳振盪よりもより重症な意識障害が不可欠と考えます。