脳脊髄液減少症について


何かと話題の脳脊髄液減少症(低髄圧症候群)は、以前には交通外傷後に起こるむち打ち症の原因ではないかと言われ、ブラッドパッチ(自己血を硬膜外注入)をする事で種々の臨床症状が改善する、いわば究極の診断及び治療法としてもてはやされた時期がありました。今は、その診断法や治療法に疑問視が投げかけられ(東京地裁H20.2.28等)、全ての症例でこの様な事はなく個々の症例で慎重に対処する事が重要の様です。私が個人的に関わらして頂いています交通外傷の事例や又は訴訟問題にも発展しかねない多くの事例は間違った知識と考え方が浸透している事が問題のようです。ここで改めてその知識を整理する意味から診断基準を列挙したいと思います。

日本神経外傷学会の診断基準(自動車ジャーナルNo1742-4頁)によりますと低髄圧症候群の「前提基準」を《起立性頭痛と体位による症状の変化》とし「大基準」を(1)《MRIでびまん性の硬膜の肥厚》、(2)《低髄液圧の証明》、(3)《髄液描出画像所見》としています。そして前提基準1項目+大基準1項目を満たす場合を低髄液圧症候群と診断しています。上記の起立性頭痛とは、坐位及び立位をとると15 分以内に増強するもので、外傷後30日以内に発症します(自動車ジャーナルNo1742-4頁)。

また問題点として、RI脳槽シンチに関してはアイソトープの吸収や排泄の早さに個人差があり、その診断価値はいまだ定まってない事(自動車ジャーナルNo1742-14頁)が挙げられます。従ってRI脳槽シンチは、将来的に上記の「大基準」(3)の内容の変更や、診断基準の大基準から省略される事があるかもしれません。

最後に。当たり前の話ですが、RI脳槽シンチの検査ではアイソトープを髄液内に注入する際に硬膜を穿刺針で破る為、検査後に髄液がもれることは当然の事です。問題はその様な漏れが、交通事故が原因で起こり、なおかつ持続的に髄液漏が起こる事により起立性頭痛が継続して起こっているかどうかが重要と考えます。

 

頭部外傷について


  1. 頭部は外側から頭皮、帽状腱膜、骨膜、頭蓋骨、硬膜、くも膜、軟膜、脳の順に構成されています。頭部を強打し、不幸にして前記の部位に出血を起こした場合にそれぞれ重大な問題となります。頭部外傷のメカニズムを検討すると①直達外力による外傷と②回転角加速度によるものがあります。①の代表例が頭皮下血腫、帽状腱膜下血腫や骨膜下血腫(いわゆるタンコブ)、頭蓋骨骨折、硬膜外血腫があります。②の代表例が硬膜下血腫、外傷性くも膜下出血、脳挫傷等があります。回転角加速度による外傷とはバイクの転倒、柔道やスノーボードによるものです。
    頭皮および頭皮下損傷:頭皮の外傷には皮膚の連続性が保たれる擦過傷と、連続性が断たれる挫傷、裂傷があります。頭皮下の出血(タンコブ)は頭蓋骨の外側の外傷ですが、重症の外傷でもタンコブを伴っている場合が多く、タンコブがあるから安全とは言い切れません。頭部打撲の場合は頭部CT等の精密検査がやはり必要です。
  2. 頭蓋骨骨折:線状骨折と陥没骨折に分類されます。鈍的な外傷で線状骨折ができ、比較的鋭的な外傷(打撲面積が少ないもの)で陥没骨折が起こります。
  3. 硬膜外血腫:側頭部を強打する事で骨折に伴い中硬膜動脈の破綻が出血源で起こります。通常症状は短時間で悪化しますが、手術により完全回復が期待できます。時間との勝負です。
  4. 硬膜下血腫:脳挫傷によって脳表の動脈や静脈が破綻する事で起こります。受傷直後から意識障害が起こります。また小児の虐待の頭部外傷では最も頻度が高い疾患です。機能および生命予後は合併した脳挫傷の程度により異なります。
    参考:慢性硬膜下血腫ー外傷3週間から3ヵ月後に痴呆症、運動麻痺、尿失禁等の症状が出現する疾患です。受傷当初は頭部CTで異常なく、その後徐々に血腫が形成されて症状が出現します。また高齢者の場合、約50%の方に外傷の既往歴がない方がおられます。この疾患は治る可能性のある痴呆症状の一つですので、検査をし手術をすると機能予後は良好です。
  5. 外傷性くも膜下出血:くも膜下腔の静脈からの出血や、脳室内や脳内出血からの進展で起こります。くも膜下出血単独の場合は、予後は良好な例が多いようです。
  6. 脳挫傷:前頭葉や側頭葉に多く、後頭葉に頻度が少ないようです。脳挫傷の部位や程度で予後が左右されます。

★小児の頭部外傷の特徴

  1. 陥没骨折が多い。
  2. 軽微な外傷から硬膜下血腫が出来やすい。
  3. 軽微な外傷でも嘔吐を来しやすい。
  4. 頭蓋内血腫例で貧血を来しやすい。
  5. 回復は良好の事が多い。
  6. 外傷性癲癇を来しやすく、脳波異常が多い。

★老人の頭部外傷の特徴

  1. 外傷に比べ機能および生命予後が不良。
  2. 脳振盪が少ない。
  3. 脳挫傷を起こしやすい。
  4. 身体の合併症が多い。
  5. 軽微な外傷で性格変化や認知症を進行させる。

 

癲癇について


癲癇大部分はそれ程大変な病気ではありません。きちんとした治療を受ける事で70~80%の人で発作が消失し、また日常生活に殆ど支障がありません。癲癇の定義については大脳神経細胞の過剰発射に由来する癲癇発作を主症状とした慢性の脳神経疾患です。発作の程度は、本人だけが気がつく程度の意識消失発作からけいれん発作を主体とするものまで程度は様々です。

癲癇の原因は出産時や新生児期に髄膜炎(脳膜炎)等に罹患して脳に損傷を受けた事で起こる症侯性(続発性)癲癇と、癲癇を起こし易い体質で起こる原発性(特発性)癲癇に分かれます。また、癲癇は遺伝病ではありません。癲癇が同一家系にみられる事はまれな事です。なお癲癇と知能障害とは、ほんの一部の例外を除いて関係がありません。過去の例でもロシアの文豪ドストエフスキーやナポレオンやジュリアス・シーザーが癲癇を持病として持っていた事はよく知られている事です。

癲癇の診断には臨床症状、脳波所見(癲癇波の確認)、 MRI検査等を総合して判断をします。MRI検査で脳の詳細な構造を検査する目的は癲癇発作の中に稀に脳腫瘍を合併例があるからです。癲癇の治療は薬物療法になり、手術等は一般的にはしません。薬物療法を継続して発作が3~5年間コントロールされ、また脳波で正常化していれば内服薬をやめれる可能性が 80%程度あります。

日常生活の注意事項としては極端なストレス、睡眠不足、暗い所でのテレビゲーム等を控える必要があります。つまり規則正しい生活が大切です。妊娠については、薬で発作が予防できている場合に服薬を継続しながら妊娠及び出産をして頂く事になります。内服薬を休薬したり、あるいは減量した場合に妊娠中に癲癇発作を起こし母子共に危険な事にならない為です。しかし妊娠中に抗痙攣剤を継続した場合、服用していない妊婦さんと比較して障害児(ごく軽い奇形や障害も含めて)の出現率が約3倍、つまり一般の妊娠が3%に対してその数値が9%へ上昇すると報告されています。従ってお子様を生む場合は、障害を持った子供さんが生まれる可能性がある覚悟をあらかじめ夫婦で持つ必要があります。

 

ふるえについて


ふるえるの状態を医学的に振戦と呼びます。振戦症状で最も頻度は多くかつ病状が進行しないものとして本態性振戦と言う病態があります。その他振戦を主な症状とする疾患にはパーキンソン病、脊髄小脳変性症、アルコール中毒、薬物中毒他、稀な遺伝的な疾患等があげられます。

本態性振戦は口、頭部、手足、声のふるえのみの症状の疾患で、振戦の頻度は1秒間に4~8回で、20~40歳頃に出現します。振戦は緊張した時やストレス時や睡眠不足で顕著になります。診断には振戦の他に歩行障害等の神経症状がない事と振戦の振幅が小さい事等で診断をします。症状の原因については原因は不明で、治療法は一部の降圧剤や安定剤が効果を示す場合がありますが、この場合一時的に振戦が軽快をするのみで治癒する事はありません。

鑑別診断としては上記の疾患があり、例えばパーキンソン病はふるえの左右差、振幅が大きく頻度もゆっくりの事で、脊髄小脳変性症は歩行障害や他の神経症状の出現から、アルコールや薬物中毒や遺伝的な疾患は病歴から判断をします。

 


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