ある日の診察状況:患者さん及び家族の方が来院「私は呆けた様です。X月X日のX時から翌朝まで記憶がありません。また家族が言うにはその間同じ事を繰り返し質問しました。」以上は一過性全健忘症の方が来院時に言われると典型的な状況です。この疾患は一時的に記憶力だけ侵される病態で、頭部のMRIやCT検査では全く異常所見を認めないものです。通常の発作継続時間は数時間ですが、長い症例では3日間程度記憶が全く頭の中に入らない症例もあります。患者さんは自分の名前や年齢や家人の顔等はよく分かりますが、新しい事柄が全く記憶に残らない状態です。その為まわりの状態が把握できず何回も同じ質問を繰り返します。またこの発作中の記憶は全くない状態です。まわりの人は全く人格が変わり呆けたのではと勘違いします。しかし発作中は字を書いたり、車を運転する等は出来る状態です。発作の原因については現在不明ですが記憶力の中枢の海馬の一過性の血流障害と考えられています。また発作の誘因は特にない事が多く(66%)、他誘因として激しい運動や怒り、悲しみ等がある様です。一般的に再発は稀で治療や予防の必要性はない様です。
加齢(老化)による物忘れを良性(正常)の老年性物忘れといいアルツハイマー病の物忘れとは次の様な点で異なります。通常の物忘れは体験した事の一部分を忘れる(何処に物を置いた事とか人の名前等)にすぎない様です。また物忘れの頻度が増えても物忘れを自覚している事が特徴です。しかし、アルツハイマー病に代表される痴呆症の場合は体験した事の全体をすっかり忘れ(エピソード記憶の障害)、そして物忘れにとどまらず見当識障害(時間や場所がわからない)や判断ミス等の知能障害へと進行し更に自分の物忘れや判断ミスに対して自覚症状が乏しい事も特徴的です。したがって家人や周りの人が初期症状を見つける場合が多い事になります。
痴呆症について(特にアルツハイマー病について)
痴呆症とは知的レベルが正常に発達した後に慢性に進行し知的機能低下症を起こす病態です。高齢者で痴呆症状を示す疾患は多数ありますが、代表的な疾患としてアルツハイマー病、血管性痴呆症、水頭症、慢性硬膜下血腫等があります。治療可能で予後が比較的良好な後2者に対して、アルツハイマー病と血管性痴呆は治療が困難で予後も不良の為に痴呆症状を早期に発見し予防する事が重要です。
血管性痴呆症は脳梗塞等の脳血管障害に合併する痴呆症で痴呆症状が急速に起ったり段階的に悪化する特徴があり、また痴呆症の他に運動麻痺や失語症等の神経症状がみられます。
アルツハイマー病は1901年ミュンヘンの精神科医のアルツハイマー氏が最初に報告した初老期の進行性痴呆症です。わが国でも診断方法などの発達から増加傾向にあり、現在痴呆症状の原因の第1位と推定されています。ちなみにその総数は65歳以上の方の20~30人に1人と考えられています。原因については家族性(遺伝子の異常)が原因の報告もありますが、実際の家族歴(遺伝歴)は全症例の13%しかなく、主原因については今後明らかにされていくものと思われます。臨床症状は記憶力障害に加え認知障害(思考障害、失行症、失語症等)があります。脳の障害部位は海馬(その形がタツノオトシゴに似たている事から)、側頭葉側面から次第に頭頂葉や後頭葉に拡がり脳の萎縮が起ってきます。診断には臨床症状、御家族のお話、知能テスト、頭部MRIでほぼ可能ですが SPECTやPET等ので脳の代謝の低下が分かれば確度は更に高まります。治療は脳のアセチルコリンという物質の減少が原因で痴呆症を起こすと考えらており、この物質を脳内で壊す酵素の働きを弱める薬を使用して病気の進行や改善を行ないます。
めまいの症状から末梢性の疾患が原因か中枢性の疾患が原因かを見極める方法は臨床症状から困難です。通常は頭部MRI検査などの精密検査が不可欠となる場合が多いと考えます。
めまいの治療は多くの場合(脳腫瘍や脳主幹動脈の閉塞症以外)その原因に関わらずまず内服薬、安静、点滴加療が中心となります。内服薬は抗めまい薬、制吐剤、脳血流改善剤、ビタミン剤等が主体です。点滴加療は主にめまいを改善させる効果があるメイロン注射が中心となります。また、めまいの原因の多くはストレスや睡眠不足、季節の変わり目等の際に起る事から安静加療も重要となります。