脳梗塞は脳の動脈が閉塞して脳細胞が虚血(乏血)状態に陥り回復出来なくなった状態を言います。この脳梗塞には2種類あり脳の太い動脈(主幹動脈の第 3~4分枝まで=長径1mm前後以上の太さの血管)が閉塞して起こる狭義の脳梗塞と穿通枝動脈(長径200~300Å=0.2~0.3mmの太さの血管)が閉塞して起こるラクナ梗塞(梗塞の長径25mm以下のもの)に大別されます。ラクナ梗塞は別名孔梗塞と呼ばれています。この孔の意味は突き抜けた孔と言う意味ですから脳実質内に突き抜けた状態で存在している梗塞の事です。ラクナ梗塞は最近まで日本人に多く、狭義の脳梗塞は欧米人に多いとされてきましたが、日本人の食生活の変化(洋食化)によりラクナ梗塞対脳梗塞の比率も欧米に近づいています。事実かつて平均寿命が全国ナンバーワンであった沖縄県の男性の平均寿命が第17位に転落した統計結果も無関係ではない様です。
脳梗塞の主な原因は予防できない危険因子としは家族歴(第3親等内の身内に脳卒中がないか)、性別、年齢があり、予防可能な危険因子として、高血圧症、糖尿病、高脂血症、高尿酸血症、喫煙、飲酒、心疾患の合併等があげられます。
一般的に加齢のみでも大脳深部(白質)にラクナ梗塞が出現し、早い人では40歳代から無症候性脳梗塞(手足の麻痺等のない脳梗塞)を認めます。従って患者さんの年齢、ラクナ梗塞の数と大きさと存在場所によって加齢変化か病的な変化かを鑑別する事は日常診療で重要です。
当院ではラクナ梗塞の大きさが10mm以上でラクナ梗塞が脳のより中心部に存在する患者には症侯性脳梗塞が将来出現する可能性を考えて抗血小板療法を行なっています。それ以下の大きさで加齢変化よりラクナ梗塞の数が多く存在しいる患者には上記の危険因子の予防療法をお勧めしています
認知症(痴呆症)の原因には前述の様に全身性及び代謝性疾患の他中枢神経が原因としてはアルツハイマー型痴呆症、前頭側頭葉型痴呆症(ピック病等)、脳血管性痴呆症、水頭症、慢性硬膜下血腫等が代表的な疾患としてあげられます。この中で外科治療を必要とし更に認知症が治る可能性がある代表的な疾患に下記の水頭症と慢性硬膜下血腫があります。
水頭症とは脳内に本来150cc程度ある脳脊髄液が、さまざまな原因(出血、感染症、加齢等)で増量し脳を圧迫する事で脳血流が低下し認知障害が引き起こされる病態です。手術は余分な髄液をお腹の中に誘導する為の短絡チューブを設け、髄液がある一定以上の量(圧)になると流れ出る特殊なシステムを使用して脳の圧迫を解除させて治療をします。治療すると早い例では数日から1ヶ月程度の間に認知症が改善します。
慢性硬膜下血腫は多くの場合、頭部外傷後約1~3ヵ月経過して頭蓋内の硬膜下に血腫が貯瘤して脳を圧迫する事で症状が出現します。血腫の形成は頭部外傷時にCTやMRIでは描出が出来ない程度の小さな出血が存在し、この血腫の回りに膜が形成がされ、更にこの膜表面に新たな血管新生とそこからの出血が内部に起こる事で血腫が増量すると考えられています。一般的に推定血腫量が約50cc以上になれば手術適応があります。治療は頭蓋骨に長径1cm以下の小さな穴を設け血腫膜の内部を生理食塩水で洗浄する事で完了します。水頭症同様数日から1ヶ月程度の間に認知症が改善します。
MRIで認められる血管の瘤(こぶ)を脳動脈瘤と呼びます。まだ破裂をしてないものを未破裂脳動脈瘤と呼びます。色々な統計から全人口の約5%すなわち日本人全体で500万人の方が未破裂脳動脈瘤を持っておられる計算になります。従ってこの疾患は決して珍しいものではありません。また、脳動脈瘤は通常急に出来るものではなく数年間の間に出来たり或いは先天的に脳動脈瘤をもっておられる方のいるようです。動脈瘤の破裂率や自然歴についてはまだ充分に解明されてない部分もありますが、一般的に動脈瘤の大きさが5~7mm大以上の場合1年間に約0.5%の方(200人に一人)が破裂すると考えられています。この数が決して多い数字ではありません。ですからたとえ脳動脈瘤が見つかっても直ちに破裂を防止する治療法を考えるのではなく、この病気の状態や治療方法をじっくり医師に相談をされ今後の治療法や予防法を考える事が重要です。
しかし動脈瘤が一旦破裂した場合、例え破裂後に手術が成功しても3人に1人の方しか社会復帰出来ないと言われています。残りの2人の方は重い後遺症がのこるか最悪死亡される事もありえます。
この疾患はお薬で治療はできません。従って治療法は手術になります。現在行なわれてる手術法はクリッピング法とカテーテルを使用するコイル法の2通りの方法があります。クリッピング法は従来より行なわれてる方法で全身麻酔下に頭蓋骨を開けて脳と骨の隙間から動脈瘤に接近して動脈瘤の根元に丁度洗濯場バサミの小さい様な形のクリップで根元を遮断する方法です。またコイル法は足の根元の股動脈からカテーテルを挿入して血管の中から動脈瘤に接近する方法で動脈瘤の内部にコイルを充填する事で破裂を防止する事が出来ます。この方法はコイルの成分の問題からまだ充分に確立した方法ではありませんが、患者さんの肉体的な負担度からその適応が拡がりつつあります。どちらの方法も長所及び短所がありますので主治医の話をじっくり聞かれ判断される事が大切です。
最後に破裂率を下げる基本的な方法はありませんが血圧が高くなったり喫煙をすると動脈瘤が拡大したり破裂したりする危険性が高くなりますので、経過観察の場合は血圧の治療と禁煙が重要となります。
痴呆症とは脳が正常の発達や発育をした後に記銘力が減退して記憶力障害を主体として見当識障害(時、場所、時間がわからない)や知能低下等が起ってくる状態です。
診断には類似の症状を示す疾患の鑑別が必要です。例えばせん妄は高齢者に多く一日の内で意識障害の程度の変化が激しくまた突然起る事で鑑別が可能です。他高齢者のうつ病も同様に症状出現が急で症状の原因(人間関係やストレス)がはっきりしている事多い様です。
痴呆症の原因は全身性及び代謝性疾患のほかに中枢神経が原因の場合アルツハイマー型痴呆症、前頭側頭葉型痴呆症(ピック病等)、脳血管性痴呆症、水頭症、慢性硬膜下血腫等が代表的な疾患としてあげられます。左記の疾患中で水頭症及び慢性硬膜下血腫は手術によって回復が可能な疾患です。アルツハイマー型痴呆症は原因不明で両側海馬~頭頂葉が萎縮する最も頻度の高い痴呆症です。ビック病はやはり原因不明で前頭葉等が萎縮する疾患です。脳血管性痴呆症はビンスワンガー型痴呆症に代表され脳梗塞が大脳半球に起り痴呆症が出現します。痴呆症の場合脳の画像診断及び知能テストで早期診断が可能でその場合は痴呆症の進行をおくらせたりまた極初期の場合は改善する様な内服薬があります。